$\gdef \vec#1{\boldsymbol{#1}} \\ \gdef \rank {\mathrm{rank}} \\ \gdef \det {\mathrm{det}} \\ \gdef \Bern {\mathrm{Bern}} \\ \gdef \Bin {\mathrm{Bin}} \\ \gdef \Mn {\mathrm{Mn}} \\ \gdef \Cov {\mathrm{Cov}} \\ \gdef \Po {\mathrm{Po}} \\ \gdef \HG {\mathrm{HG}} \\ \gdef \Geo {\mathrm{Geo}}\\ \gdef \N {\mathrm{N}} \\ \gdef \LN {\mathrm{LN}} \\ \gdef \U {\mathrm{U}} \\ \gdef \t {\mathrm{t}} \\ \gdef \F {\mathrm{F}} \\ \gdef \Exp {\mathrm{Exp}} \\ \gdef \Ga {\mathrm{Ga}} \\ \gdef \Be {\mathrm{Be}} \\ \gdef \NB {\mathrm{NB}} \\ \gdef \indep {\mathop{\perp\!\!\!\!\perp}} \\ \gdef \tr {\mathrm{tr}}$
これまで生存時間解析としてログランク検定とCox比例ハザード解析を学んできましたが、その違い・使い分けを整理したいです。
どちらも生存時間解析でありますが、まずモデルの構造が異なります。
また、複数の説明変数をモデルに組み込めるか否かという点も異なります。
なるほどです。その2つの観点から整理していきたいと思います。
以下ではログランク検定、Cox比例ハザード解析の違いを、2つの観点:①モデルの構造、②複数の説明変数をモデルに組み込むことができるか?、から整理していきます。
1. モデルの構造
それぞれのモデルの構造は、
⚫️ログランク検定のモデル:ノンパラメトリックモデル
⚫️Cox比例ハザード解析のモデル:セミパラメトリックモデル
となります。
ここでノンパラメトリックモデルとパラメトリックモデル(セミパラメトリックモデルではなく)の利点・欠点を復習しましょう。
利点 | 欠点 | |
ノンパラメトリック | – 分布・モデルを指定しないので常に使える – 分布・モデルの誤設定の心配がない | – 分布・モデルを指定しないことで検出力が低下する可能性がある |
パラメトリック | – 分布・モデルを指定するため検出力が向上する可能性がある | – 分布・モデルを指定する必要があるため常に使えるとは限らない (適した条件下でしか使えない) – 分布・モデルの誤設定の心配がある |
Cox比例ハザード解析のモデルが属するセミパラメトリックモデルは、ノンパラメトリックモデルとパラメトリックモデルとの折衷案でした。
2. 複数の説明変数をモデルに組み込むことができるか?
結論からすると、
⚫️ログランク検定のモデル:複数の説明変数をモデルに組み込むことができない
⚫️Cox比例ハザード解析のモデル:複数の説明変数をモデルに組み込むことができる
となります。
例として、イベントを『死亡』として、治療薬A、プラセボ薬Bによる生存時間解析を扱います。 以下の様なカプランマイヤー曲線が与えられたとします。
ログランク検定では<カプランマイヤー推定量・曲線とログランク検定>で扱った通り、上のカプランマイヤー曲線上にあるデータから検定統計量を構成し、それに基づいた検定をします。
複数の説明変数をモデルに組み込むことができないため、例えば年齢カテゴリー(65歳以上、65歳未満)によって調整したいと思ってもそれはできません*。
(*:ただし、年齢カテゴリーによって層別化すれば年齢カテゴリーによる生存関数の違いを確認することは可能です)
一方のCox比例ハザード解析では、説明変数$x_{i,1} (= 1 \small{(治療薬A)}$, $0 \small{(プラセボ薬B)})$を用いてハザード関数$h(t;x_{i,1}) = h_0 (t) \cdot \exp (\beta_1 x_{i,1})$と置いた上で、回帰係数$\beta_1$の検定がなされます。
別の説明変数として例えば年齢、性別が生存時間に影響していると考えた時、$x_{i,2} (= 1 \small{(65歳以上)}$, $0 \small{(65歳未満)})$, $x_{i,3} (= 1 \small{(男性)}$, $0 \small{(女性)})$などと設定し、$h(t;\vec x_i) = h_0 (t) \cdot \exp (\beta_1 x_{i,1} + \beta_2 x_{i,2} + \beta_3 x_{i,3})$と置いた上で、回帰係数$\beta_1$の検定がなされます。
この、年齢、性別を組み込んだ解析では、年齢、性別を調整したものと考えられます。 即ち、年齢、性別を調整した上での、プラセボ薬Bに対する治療薬Aの効果を見ることができます。
ひとつ注意点としては、Cox比例ハザードモデルに組み込むことができる説明変数の数は、イベント発生数の1/10程度にすべきとされています。というのも、この限度を超えると安定した結果が得られないためです。例えばイベントとしての『死亡』が80生じたとすれば、Cox比例ハザードモデルに組み込むことができる説明変数は8個までが目安となります。
まとめ.
- ログランク検定、Cox比例ハザード解析はどちらも生存時間解析に用いられるが、 ①モデルの構造 ②複数の説明変数をモデルに組み込むことができるか? という点で異なる。